- 2026年3月17日
第6回 「薬を出さない」という選択について
- 薬を出さないという、もう一つの治療
- それは「何もしない」のではなく、あなたを守る決断です
■「お薬、出ないんですか?」
診察の最後にそう言われて、少し拍子抜けしたり、不安になったりしたことはありませんか?
「せっかく受診したのに、損をした気分」
「薬がないと、治るのが遅くなるんじゃないか」
「先生に、軽くあしらわれたのかな……」
そんな風に思うのも、無理はありません。
でも実は、町のお医者さんが「あえて薬を出さない」と決める背景には、
あなたの体を最優先に考えた「積極的な理由」が隠されているのです。 今回は、町のお医者さんが薬を出さないと判断するときの考え方をお話しします。
■ 薬は「正義の味方」だけではない
薬は正しく使えば心強い味方ですが、
どんなに良い薬にも必ず「副作用」という裏の顔があります。
私たち医師は、診察室で常に頭の中で天秤(てんびん)をかけています。
- 「薬を飲むメリット」vs「副作用のデメリット」:例えば、軽い風邪に強い薬を使うことで、胃が荒れたり、ひどい眠気に襲われたりしては本末転倒です。
- 「飲み合わせ」のパズル:すでに他の病気で薬を飲んでいる場合、新しい薬を足すことで互いの効果を打ち消したり、体に毒となったりするリスクを慎重に避けています。
- 「体の慣れ」を防ぐ:安易に強い薬に頼りすぎると、体が薬に慣れてしまい、本当に必要になった時に効きにくくなることがあります。
これらを検討した結果、
「今は出さない方が、あなたの体にとって安全で近道だ」
と判断することがあるのです。
■ あなたの「自浄作用」を応援する
人間の体には、もともと「自分で自分を治す力(自然治癒力)」が備わっています。
軽い症状の場合、薬で無理に抑え込むよりも、「何を食べて、どう眠るか」というアドバイスを実践していただく方が、根本的な解決につながることが多いのです。
お薬をお出ししない時、私たちは「処方箋」の代わりに「過ごし方の知恵」をお渡ししています。
それは、あなたの体の中にある「名医」が一番働きやすい環境を整えるための、立派な治療なのです。
■「出さない」判断の裏にある、医師の準備
薬を出さないからといって、放り出しているわけではありません。
その裏側では、次のような準備を必ず行っています。
- 「見通し」の共有:「あと何日くらいでピークを越えますよ」という、回復への地図をお伝えします。
- 「レッドフラッグ(危険信号)」の確認:「もしこんな症状が出たら、夜中でもすぐに来てください」という、緊急時のルールを共有します。
- 「次の一手」のキープ:「数日見て変わらなければ、次はこうしましょう」と、
バックアッププランを練っています。
■ 町のお医者さんからのメッセージ
私たちの願いは、皆さんに「薬漬け」になってもらうことではなく、
「できるだけ少ない薬で、元気に過ごしてもらうこと」です。
薬を出さないという選択は、あなたの体力を信じ、負担を最小限にしようとする、
私たちなりの「愛情」の形でもあります。
「薬がなくて不安だな」と感じた時は、遠慮なくこう聞いてみてください。
「先生、薬を使わない方がいい理由を教えてください」
きっと、納得できる理由が返ってくるはずですよ。
参考・引用元(内容の考え方の参考として)
※以下は本文を作成する際の医学的考え方の参考資料であり、本文はこれらをそのまま引用したものではありません。
厚生労働省:高齢者の医薬品適正使用の指針 (不要な多剤服用「ポリファーマシー」を避けるための基本的考え方) https://www.mhlw.go.jp/stf/houdou/0000212975.html
Choosing Wisely Japan:賢い選択 (過剰な検査や投薬を避け、患者と医師が対話して治療を選ぶ国際的なキャンペーン) http://choosingwisely.jp/
AMR臨床リファレンスセンター:かぜに抗菌薬は効きません (不必要な薬を使わないことの医学的意義についての解説) https://amr.ncgm.go.jp/general/case-kaze.html
【重要】 医療上の責任について
本コラムは、医療に関する一般的な情報提供を目的としており、個別の診断や治療方針を示すものではありません。症状や体調に不安がある場合は、自己判断せず、必ず医師または医療機関にご相談ください。
「薬を出さない」と判断された後に、症状が急激に悪化したり、新しい症状が出たりした場合は、遠慮なく再受診してください。
緊急性が高いと感じる場合は、迷わず救急車や、各自治体の救急電話相談(#7119(救急安心センター事業)など)を利用してください。「異常なし」と診断された後でも、症状が急変した場合や、耐えがたい痛み、意識の低下などがある場合、「いつもと明らかに違う」「様子がおかしい」と感じる場合は、速やかに医療機関に連絡するか、救急車(119番)を検討してください。
掲載内容は2026年2月現在の情報に基づいています。本記事の情報を利用した結果生じたいかなる損害についても、筆者および掲載媒体は一切の責任を負いかねます。
著者プロフィール
梶原 直央
当院管理医師 内科・外科医師
(元東京医科大学呼吸器外科教授)
日常診療では、病気そのものだけでなく、生活背景や不安も含めた相談を大切にしている。
本連載では、医療情報があふれる時代だからこそ、「何を基準に考えればいいのか」「どこまで心配しなくていいのか」を町のお医者さんの視点で伝えている。