• 2026年5月1日
  • 2026年5月7日

第11回  病院嫌いの家族に受診を勧めたいとき、どう伝える?

~「正論」よりも大切な心の扉の開き方~

こんにちは。町のお医者さんです。

「お願いだから、一度病院に行って!」
心配だからこそ、つい言葉が強くなってしまうこと、ありますよね。

ところが、そう声をかけるほど「どこも悪くない!」「放っておいてくれ!」と相手が頑なになり、ケンカになってしまった……というご相談をよく受けます。家族を想う気持ちが空回りしてしまうのは、本当に切ないものです。

今回は、大切な人の重い腰を動かすための「伝え方のヒント」を、町のお医者さんの視点でお話しします。

私たちはつい、「放っておくと大変なことになる」「行くのが当たり前だ」という正論で説得しようとしてしまいます。

しかし、病院を避ける人の心の裏側には、「怖い」「老化を認めたくない」「生活を制限されたくない」といった繊細な不安が隠れています。そこへ正論をぶつけてしまうと、相手は「自分の生き方を否定された」と感じ、自分を守るためにさらに心を閉ざしてしまうのです。

特に、プライドを大切にする高齢の方や、責任ある立場で働く現役世代ほど、この「拒絶反応」は強く出やすい傾向にあります。

相手の行動を正そうとするのではなく、今のあなたの「気持ち」を届けてみましょう。


心理学で「アイ・メッセージ(I Message)」と呼ばれる、自分を主語にする伝え方です。

  • ×「(あなたは)病気なんだから、いい加減に行きなさい」
    (相手をコントロールしようとする言葉)
  • 「(私は)あなたが最近辛そうに見えて、夜も眠れないほど心配なの」
    (あなたの愛情を伝える言葉)
  • ×「(あなたは)このままだと動けなくなるよ」
    (恐怖で脅す言葉)
  • 「(私は)これからも一緒に美味しいものを食べに行きたいから、一度安心させてほしいな」
    (未来の希望を共有する言葉)

「相手を動かす」のではなく、「私の不安を解消するために、力を貸してほしい」という形で頼ってみる。これが、相手の心の扉を内側から開く近道になります。

私たち医師も、無理やり連れてこられた方より、

少しでも「自分から相談してみよう」と納得して来院された方のほうが、

その後の治療への意欲が高く、良い結果につながりやすいと感じています。

何もなければ、それで『安心』だね」と、

受診のハードルを下げてあげることも大切です。

病院を「病気を治す場所」としてだけでなく、

「今の穏やかな生活を守るための確認場所」と捉え直し、「安心を買う」ための受診と考えてもらうのです。

もし、どうしても本人が首を縦に振らないときは、まずはご家族だけで相談に来てください。

私たちは、ご家族がどれほど心を砕き、人知れず悩んでいるかを知っています。

「どう声をかけたら、本人が安心して診察室に入ってこれるか」を一緒に作戦会議するのも、地域の診療所の大きな役割です。

どうか一人で抱え込まずに、まずはあなたの「心配な気持ち」を、私たちに話しに来てください。

参考・引用元(内容の考え方の参考として)
※以下は本文を作成する際の医学的考え方の参考資料であり、本文はこれらをそのまま引用したものではありません。
・ 厚生労働省「家族と健康」に関する啓発情報
・「上手な医療のかかり方:ご家族の方へ」
(厚生労働省 知っておきたい上手な医療のかかり方)

・ 日本医師会「患者さんとご家族のために」といった一般向け資料
・「How to help someone seek help(誰かに助けを求めるよう促す方法)」
(英国メンタルヘルス団体 Mind 公式サイト)

・「コミュニケーションのヒント:アイ・メッセージ」
(一般社団法人 日本家族計画協会 等の心理・育児支援資料を参考に構成)

【重要】 医療上の責任について
本コラムは、医療に関する一般的な情報提供を目的としており、個別の診断や治療方針を示すものではありません。症状や体調に不安がある場合は、自己判断せず、必ず医師または医療機関にご相談ください。
緊急性が高いと感じる場合は、迷わず救急車や、各自治体の救急電話相談(#7119(救急安心センター事業)など)を利用してください。本人が明らかに意識障害を起こしている、激しい痛みがある、自傷他害の恐れがあるなど、緊急を要する場合は、本人の同意を待たず救急要請(119番)や専門機関へ連絡してください。
掲載内容は2026年3月現在の情報に基づいています。本記事の情報を利用した結果生じたいかなる損害についても、筆者および掲載媒体は一切の責任を負いかねます。

著者プロフィール
梶原 直央
当院管理医師 内科・外科医師
(元東京医科大学呼吸器外科教授)

日常診療では、病気そのものだけでなく、生活背景や不安も含めた相談を大切にしている。
本連載では、医療情報があふれる時代だからこそ、「何を基準に考えればいいのか」「どこまで心配しなくていいのか」を町のお医者さんの視点で伝えている。

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